空冷フラット6を守る、新たな選択肢。


名車の鼓動を守るのは、ただのオイルではない。
エンジンの真価を引き出し、過酷な環境から保護することが理想のエンジンオイルの使命だ。
空冷フラット6を搭載したポルシェ911は、その独自の構造ゆえに
特別なケアを必要とする。エーゼットは、答えを導き出した。
日本の気候に最適化された空冷ポルシェ専用エンジンオイル、その開発の軌跡を追う。

 かつての名車を今も駆る者にとって、エンジンオイルは単なる潤滑剤ではない。それは、エンジンの鼓動を守り、その性能を最大限に引き出す“生命線”とも言える存在だ。特に、空冷フラット6エンジンを搭載するポルシェ911のオーナーにとって、その選択は走りの質を決定づける。日本の過酷な気候条件下で、エンジンを守り抜くオイルはあるのか―その問いに答えるべく、エーゼットは空冷ポルシェ専用のエンジンオイルを開発した。
 日本の気候は、空冷エンジンにとって試練の連続である。高温多湿な夏、渋滞時の高負荷、冬季の極寒、さらには海風や除雪剤による錆のリスク。これらの過酷な条件をクリアするため、エーゼットは高温多湿や渋滞を考慮しつつ、低温時の始動性にも優れたバランスの取れた設計を採用した。レース用ではなく、日常走行においてもエンジン本来のポテンシャルを引き出すことに重点を置いている。
 エンジンオイルの開発において、机上の理論だけでは理想の性能は得られない。エーゼットは2021年春、空冷ポルシェを3台導入。うち2台はレストアし、1台はテスト車両として実験を重ねた。整備工場との連携を通じ、空冷フラット6の特性を徹底的に研究し、その知見を製品へと反映させた。開発段階では、低温から高温までの粘度特性、物理・化学的特性を解析し、酸化安定性、せん断安定性、熱安定性など、多岐にわたる試験を実施。さらに、エンジンオイルの熱伝導性を向上させ、空冷エンジンの実質的な「油冷」機能を強化しているのである。
 過酷な環境での信頼性も徹底的に追求した。耐熱性の高い基油と添加剤を厳選し、高圧下での性能を向上させるため、粘度-温度特性を最適化。高圧粘度の高い基油を採用し、高温高せん断粘度は規格値の3.7MPa-sを大幅に上回る。さらに、寒冷地でもその能力を発揮し、20Wの粘度グレードでありながら実質的に15W相当の低温始動性を実現。極寒の地でも、エンジンをスムーズに始動させることができる。
 エンジンの長寿命化にも貢献する。半世紀以上前に設計された空冷エンジンの特性を考慮し、摩耗を防ぐために極めて高い高温高せん断粘度を確保。せん断安定性の高い添加剤により、粘度低下を抑え、長期間にわたり摩耗防止性能を発揮する。また、ゴムシールを硬化させる成分を除去し、オイル漏れを防ぐことで、オイルレベルの低下や冷却性能の劣化を未然に防ぐ。
 空冷ならではのエンジンフィールへの影響も気になるところ。特殊添加剤の金属表面平滑効果と、高分子添加剤のクッション効果により、エンジンの振動はスムーズになり、タペット音の増加も抑えられる。さらに、冷却性能の向上により、夏場の熱ダレを軽減。日常走行においても、フラット6の昂る咆哮は、一層際立つのである。
 エーゼットの哲学は、クラシックカーの魂を守ることにある。1950~1980年代の日本の製造業の黄金時代に培われた技術力を基に、現在も空冷ポルシェやクラシックミニなど、愛され続ける車のためのエンジンオイルを開発している。
 現在、この空冷ポルシェ専用エンジンオイルは社内テスト段階にあり、レース用途は想定せず、一般走行向けのテストを継続中。今後はレース用やターボ車用のオイルも開発予定である。そして、エーゼットの挑戦はエンジンオイルに留まらない。駆動系にも目を向け、空冷ポルシェ専用のトランスミッションオイルの開発にも着手している。シフトフィールの向上、耐久性の確保、そしてドライバーとマシンの一体感をさらに高めることを目指している。エーゼットは、空冷ポルシェが持つ本来のパフォーマンスを余すところなく引き出すため、開発の手を緩めることはない。
「50年以上前に作られたエンジンが、現在はどのような状態になっているのかを把握して、その欠点を最新技術で補おうと考えました。昔の原料が使えないため、国内だけでなく世界中の添加剤メーカーと協力し、添加剤の段階から新たに開発しました。しかし、添加剤はサンプルの輸入に時間がかかることが課題です。そのため、開発には年単位の時間がかかります。それでも納得のいくものを作りたい。時間をかけてでも、妥協しない姿勢がエーゼットの強みです。需要の高い低いに関係なく、魅力的な車のためのエンジンオイルを、これからも作り続けていきたいと考えています」 
 そう語るのは、エーゼット 技術開発部 の前納理佳氏だ。
 かつてサーキットやワインディングを駆け抜けた空冷フラット6。その鼓動を受け継ぐ者にとって、エンジンオイルの選択は“走り”そのものを左右する。エーゼットの空冷ポルシェ専用エンジンオイルは、その熱い魂を守り、未来へとつなぐ新たな選択肢となるに違いない。


写真=小林邦寿 文=編集部 問い合わせ=エーゼット 06-6911-0070 https://www.az-oil.jp

エーゼット技術開発部の前納理佳氏は、開発の最前線に立つエンジンオイルのスペシャリストである。「幸いなことに、長年の付き合いがある原材料メーカーの協力が得られ、優れた設計が実現しました。今後も開発には年単位の時間を要しますが、第二、第三の開発を進めていきたいと思っています」と語る。その視線の先にあるのは、ただの進化ではない。クラシックポルシェの「走りの本質」を追求し、次なる時代へとつなげることだ。レース用のオイル開発においても、クラブマンレーサーとの意見交換を行い、実際のスポーツ走行に即したブラッシュアップを図る。妥協なき開発、その哲学がエーゼットを前進させる原動力となっている。

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