F1を支えるBBSの技術、マグネシウムホイールの進化と挑戦。

 モータースポーツの進化を語る際に、切っても切り離せないのが軽合金ホイールだと思う。軽さと同時に放熱性やサスペンション性能などの向上を求めて、多くの開発者たちがホイール素材の研究と開発に勤しんできた。結果として、アルミやマグネシウムといった軽量素材が、レーシングユーズに限らずホイール全般に広く用いられるようになっている。

 BBS Motorsport社で40年近くホイール設計に携わってきたRoman Muller(ローマン・ミュラー)氏が、マグネシウムホイールについて深く語ってくれた。BBSといえば、1992年にBBSジャパンとともに、世界初のマグネシウム鍛造ホイールの開発に成功した。ポルシェGT3RS、GT4RS、911S/T、それにアストンマーティンなど、BBSがマグネシウムホイールを提供したハイエンドカーは数多く存在する。そして今なお、F1ホイールのサプライヤーとしても一線で活躍し続けている。まずは、なぜマグネシウムホイールを使うのか?という私の疑問に、彼はこう答えてくれた。

 「一番の理由として、マグネシウムはアルミニウムと比べて比重が33%小さいことが挙げられます。1立方センチメートルあたりでみると、アルミニウムは2.7グラムに対してマグネシウムは1.8グラムなので、とても軽量であることが分かりますね。だからマグネシウムをホイール設計に使用する場合、機能的な理由から必要とされるいくつかの部分を非常に軽くできるという大きなメリットがあります。でも、ホイールで重要なポイントとなる剛性を見ると、アルミニウムほど剛性が高くないのは事実です。でもマグネシウムには設計や加工がしやすいというメリットもあります。ですから、材料そのものの剛性の低さを完全に補いつつ、形状で剛性を高めるということができるのです」

 ハテナが飛んでいる私に微笑みつつ、ミュラー氏はマグネシウムホイールの裏側を指差しながらさらにこう続けた。

 「私が知恵を絞ってたどり着いたのが、アンダーカットを用いた設計です。これはいわゆるスポークへのえぐり加工ですが、スポークの高さをより高く設計することができるので、剛性を高めることにつながります。だから相当な力がかかっても変形しにくいホイールができるということです。残念ながら、このアイデアで特許を取ることを忘れてしまいました」

 真剣に説明してくれる彼の横顔に、設計者としての苦悩と誇りが表れているような気がした。

 「レーシングチームは、ホイールの剛性だけでなく慣性回転の改善を目標のひとつに掲げています。回転質量を小さくすると、加速性能に加えて燃費の向上にもつながります。そして燃費の向上はCO2の削減につながることを忘れてはいけません。マグネシウムホイールは、原理的にはレーシングカーもロードカーも関係なく、現在の環境問題に大きなメリットがあると言えるでしょう」

 ではなぜ、ロードカーにはそこまで広くマグネシウムホイールが普及しないのか?私はそんな疑問を持った。  

 「マグネシウムはアルミニウムの5倍も高価な素材だという点が一番の原因でしょう。また、通常の道路で使用するためには、腐食しないように非常に特殊な表面処理が必要になります。BBSではこの表面処理を開発し、世界規模で展開しています。この処理をするために必要な設備を有した工場は世界中を見てもあまりないんですよ」

 実際、BBS Motorsport社には加工や塗装の工場があって、100名以上が働いているそうだ。

 BBSジャパンとともに、マグネシウム鍛造ホイールをF1ホイールサプライヤーとして供給し続けている。そして、既に2026年シーズンの準備も進められているという。

 2022年からホイールサイズが13インチから18インチになっただけでなく、2024年にはすべてのホイールがMK2と呼ばれるアップデート版に進化した。その進化の過程を振り返りミュラー氏はこう語る。

 「このような分野の開発は設計者として非常にチャレンジングでした。例えば10人のチームエンジニアと10人の設計者がいたら、全員がプロです。ある人はより剛性を高めたいと考え、ある人はより軽量でオフセットが少ないことを望みました。ある人が10mmのオフセットが必要だと言えば、別の人は50mm必要だと言う。毎日ビデオ通話でチームのリーダーやエンジニアと会議をして、技術的な話し合いを重ねました。ホイール設計者としてアイデアを提供し、形にして、最終的に軽量かつ耐衝撃性に優れた、何の問題もなく走れるホイールが完成しました」

 MK2は、アウターリムの形状変更によって側面衝撃耐性が向上し、また、塗膜品質も大幅に向上している。その裏側には、マグネシウムホイールの研究に長年を費やしてきたミュラー氏のような設計者が活躍していたのだと知った。最後に彼はマグネシウムホイールについての話をこう締めくくった。

 「何よりもマグネシウムは、人間が健康的に生きるために必須の栄養素ですよね! だからとても良いものなんですよ(笑)」


写真=中島仁菜 文=上之園真以 問い合わせ=BBSジャパン 03-6402-4090 https://bbs-japan.co.jp

初出:『MOTORIST vol.4』(2025年3月31日発売)
※内容は発売当時のものです。掲載にあたり一部加筆修正をおこなっています。

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